ぼくのかんがえたマリみて

ロザリオを受け取った瞬間、祐巳はどこからか現れた黒服に取り囲まれ、抵抗も虚しく別室へと連れていかれた。別室の扉は二重構造になっており、中の声――悲鳴を外に漏らさないためであろうと、数多の修羅場をくぐり抜けてきた祐巳は想像した。そしてその想像が正しいことも確信していた。一つ目の扉をくぐったところで目隠しをされ、そのまま二つ目の扉をくぐらされる。中に入った瞬間、頬を熱い空気が撫でた。焼け焦げたにおい。こいつらは一体何をしてるんだ? 祐巳はそう思うと同時に黒服に組み伏せられた。物音だけの世界が祐巳を否応なしに不安にさせた。何かの熱と焼け焦げたにおいが近づいてくる。それが何なのか、はっきりとはわからないものの、祐巳は本能的な恐怖を感じ、立ち上がろうと手足に力をこめた。祐巳にとってそれは決死の抵抗だったが、しかし黒服たちは祐巳を床に貼りつけたまま逃そうとはしない。「やめろ……、お前ら、一体何を――ぎゃあぁぁあぁぁーっ!!!」 右腕だった。肩に近いところに抉るような痛み。熱。焼ける。皮膚のこげるにおいが鼻をついた。熱源はすぐに祐巳の腕から離れた。時間にして二秒程度だろうか。だが祐巳はそのあとも「おぉぉぉおぉ……」と地獄の底から滲み出てくるような鈍い悲鳴を上げ続けた。黒服たちは祐巳から手を離す。そうしてようやく祐巳は床を転げ回るという望みを果たしたのであった。壁にぶつかったところで肩を抱くようにして身体を丸くする。しばらく荒い息を繰り返した。やがて祐巳は、床を転げ回ったせいでずれていた目隠しをのろのろと剥ぎ取り、恐る恐る自分の右腕を確認した。皮膚がこげて黒く変色していた。その黒くこげた部分が文字を形成していた。【紅薔薇】 そう読めた。焼印だと気づくのに数秒かかった。……こいつら人を家畜みたいに。激しい怒りを覚える祐巳だったが、自分を立ち上がらせようとする黒服に抵抗するだけの気力は湧かなかった。祐巳はまた別の部屋へと連れていかれる。そこは薄暗い部屋で、正面がガラス張りになっていた。祐巳と同い年の少女たちが集められていた。限定ジャンケンに敗れ、ロザリオを授けられた少女たちだ。一人の少女が祐巳の目にとまった。その少女はガラス張りの壁に向かい、つまり祐巳からは背を向けるようにして胡坐をかいていた。お下げにした黒髪が特徴的だった。彼女も腕にも焼印があった。【黄薔薇】 彼女は由乃と名乗った。島津由乃。【ロサ・フェティダ・アン・ブゥトン プティ・スール】 黄薔薇のつぼみの妹である。ロザリオを大事そうにその胸に抱き、企むような笑みをたたえていた。