口姦

頭に白いタオルを被り、長い坂を下っていく。焼けたアスファルトがスニーカーの底を溶かす想像をする。少し前を行くカズミは長い髪をポ二ーテールにして、まだ日に焼けていないうなじをわたしに見せつけている。黒い髪と白い肌。おそらくわたしはフェティズムというものに理解があるのだろう。揺れるしっぽと、後れ毛と、あごを伝い流れて落ちる汗と、濡れた首筋を見ていると、いくらか暑さが和らぐ気がした。
学校のイベントで張り切る人もいるけれど、わたしやカズミは違うらしい。だらだらと歩いて、前を行く同級生達はもう見えない。全体の順位としては後ろのほう。グラフみたいなのにすると前から測って4分の3くらいの位置だと思う。後ろにいる人たちはもっとだらだらしていて、今はもう話し声も聞こえないくらいに離れている。
少し早足になるだけで、足首がきしむ感じがする。カズミの左側に並んで、その横顔を覗き込むと、彼女は口の中で何かを転がしていた。飴でも舐めているのかなと思う。頬の内側で動く舌を想像すると、何となく喉が渇いて、わたしはタスキ掛けにしている水筒に手を置いた。
カズミがわたしに気づいて、「ん?」とちらりと横目を向けてくる。いつも掛けている眼鏡を今は外している。
「なに舐めてんの?」
わたしが聞くと、カズミは「んー」と何か考え込むように空を仰ぎ、それからまたちらりとわたしを見て、小首を傾げた。
「……いる?」
『る』の音が怪しい。
「ん? んー……」
考えていると、カズミはすっと距離を縮めた。まるで忍のように気配なく。ふいに頭の後ろに熱いてのひらを感じて、すぐに、柔らかいものが唇に押しつけられた。知らず立ち止まる。目の前に、目を閉じたカズミの顔があった。
舌が唇を割り開き、歯と歯茎を舐める。閉じた歯の隙間に尖らせた舌の先が入り込み、こじ開けようとする。
「ん……」
熱い空気の中でカズミの舌はひやりと冷たく、わたしはそっと口を開いた。柔らかな舌が歯の裏を悪戯っぽく舐める。
わたしの口を軽く犯していた舌が退き、代わりに丸いものが押し込められる。飴じゃなかった。ほのかにかたくて、少し柔らかい。さくらんぼみたいな。
カズミは唇を離し、左目だけを開けてくすりと笑う。
「噛まないでね」
「……うん」
舌で転がす。ほんのりと塩味がする。
「こうかん」
カズミはそう言って、わたしの右目の上に手を添え、少し背伸びをしてまた顔を近づける。赤い舌が見える。ひやりとした舌が、わたしの右目に触れる。
口の中の丸いもの。涙の味。