川を渡る

Lは川のこちら側にいる。恋人のMが川向うにいる。

LはMのところに行きたいのだが、橋が流されていて渡ることができない。

舟を持っているBにたのむと、百万円出さなければいやだという。

Lはあきらめて、同じく舟を持っているSにたのむ。Sはからだを要求する。

どうしてもMに会いたいLはSにからだをあたえ、川を渡る。そうしてようやくLは恋人との邂逅をはたす。しかし、Sはその後もからだを要求してくる。Mにばらされたらと思うと、Lには拒みきれない。からだをかさねるうちにSへの情も湧いてくる。Mは何も知らずにLのことを信じている。一方、Sは肉欲と愛情と罪悪感の狭間で苦しんでもいた。その結果、Sは、Lに目隠しをした上での行為を要求する。いつもと違う行為とSの態度に、いつもより乱れてしまうL。目隠しを外されたとき(あれ? どうしてSの手が後ろから?)目の前にいたのは、身動きができないようにしばられ、猿轡をされたMであった。Lは言葉を失う。Mは頬を伝う涙を拭うこともできずに、ぐったりと項垂れていた。Sは声を上げて笑う。しかし、それはすぐに悲哀の泣き声へと変わる。Lは二人を置き、ふらふらと夜の街へと消えていく。
悲嘆にくれ、死んだ魚のような目で場末の酒場で働くLのまえに、Hがやって来る。HはLの店に通いつめ、Lから事情を聞きだし、親身になって慰める。そんなHに、Lは徐々に気を許していく。やがてHは、よかったら一緒に暮らしましょう、といってLを家に連れて帰った。
訪れたHの家で、Lは獣の唸り声のようなものを聞く。あの声は何かと訊ねると、Hは行ってみればわかると手を引いた。声は寝室から漏れていた。ドアを開けるとそこには、捨てたはずの過去、MとSの姿があった。二人はベッドの上で絡み合い、甲高い嬌声を上げていた。ふらりとよろめくLを、Hは抱きかかえるようにして支える。そしてHは、実はあのとき一部始終を見ていたんだ、と明かす。さあ、これからは四人で一緒に楽しく暮らそう。そういって、Hはにっこりと微笑む。
このときHの背後にはBの姿があった。BはHに目配せをする。それを見て、Hは札束の入った封筒を渡した。ベッドの二人に呆然としていたLは、背後で行われたそんなやりとりに気づかない。HはBに、一緒にどうか? と目で促すが、Bは金を貰えればそれでいいと言わんばかりに首を振った。
寝室のドアが閉まる音に、Lはびくりとからだを震わせる。振り返り、そこにあったHの笑顔に怯えながらも、否応なしに聞こえてくるベッドからの嬌声に、熱を帯びた濡れた吐息を漏らすのだった。