かくれんぼ

とてとてと階段を上る軽い足音が聞こえた。俺はベッドで寝転がりながら漫画を読んでいた。すぐに妹の葉月が部屋に入ってきて、何故かまわりをキョロキョロと見渡す。
「ん、何?」
聞いた俺に、葉月は「しー」と人差し指を口に当てる。
「うん?」
それから机の下に潜り込んで、中から椅子を引っ張って蓋みたいにする。どうやかくれんぼか何かのようだ。でもそこは暑くないか。
今度は姉が上がってきて、妹が来ていないか聞いた。葉月はともかくとして、あんたはかくれんぼに熱中する年でもないだろうに。
「いや、知らないけど」
そう答えたものの、つい目が机のほうに向いた。決してわざとではない。
姉は、にへーと笑い、しかし何故か部屋を出て階段を下りていった。
「お姉ちゃん、いった?」
葉月が机の下から顔だけ出して聞いた。
「ん、さあ?」
すぐに階段を上る姉の足音がして、葉月は慌ててまた机の下に隠れた。
「アイス買ってきてたんだー」
姉はそう言って、俺にアイスキャンディの一本を渡してくる。
「ん……、うん」
軽く首を傾げながらも、俺はありがたく頂くことした。見ると姉の手にはまだ二本のアイス。姉の分と葉月の分。そういうことか。
「葉月いないのかなー。アイスいらないのかなー」
歌うような調子で、とても楽しそうに言う。意地悪だなぁ。机のほうでカタンと物音がしたが、姉は大人げなく聞こえなかったふりをした。ベッドに座りながら、自分のアイスを開けて齧りつく。そして最後に残ったアイスに手をかけながら、
「いないんだったら食べちゃおっかなー。とけちゃうしー」
葉月は迷いに迷っていたようだが、やがてガタガタと椅子を鳴らした。出てきた葉月の顔にはじんわりと汗が滲んでいた。うん、そこは暑かっただろう。
葉月はベッドの横に背もたれにして、そっぽを向きながらもらったアイスを齧っている。姉はそんな葉月の頭をぐりぐりと撫でて、何だか満足そうな顔をする。俺は「この狭い部屋に三人もいたら暑いよなぁ」と思いながらも、とりあえず、「何があっても動じずただひたすら漫画を読む兄および弟」という役割を果たすことにした。